小沢健二のコンサートに行ってきた(感想)

小沢健二のコンサートツアー「春の空気に虹をかけ」最終日公演(日本武道館)に行ってきた。今回行ってみてたいへん思うところがあったのだけれど、この話題について話し合える知人が数えるほどしかいないので、あたまおかしいうちにここに感想を書き残しておくことにする。音楽のことはさっぱりわからないし、セットリストも記憶していないので、もっぱら主観的な感想のみを書きます。


で、今回の「春の空気に虹をかけ」で思ったことには、これって2010年以来「ひふみよ」「東京の街が奏でる」「魔法的」と段階的に実験してきた成果を、より大規模に展開したものだったんじゃないかってこと。今回、過去曲をやりながらしかし懐古感はほとんど感じさせず(「ひふみよ」)、同じ空間を共有する穏やかな雰囲気で(「東京の街が奏でる」)、日常と地続きのところにある非日常として終わったらきちんと生活に帰す(「魔法的」)、という方法がフルに使われていて、ここ数年の小沢健二がやっていた、自身の曲を具体的なもの・現実的なものと接続しよう方向性をきちんと盛り込んだコンサートだった。

抽象的な歌に具体的な生活を接続する

思うに、小沢健二の歌の特徴に「現実の世界を超えた普遍的なもの・超越的なものを何とかして語らん歌わんとして、歌詞の中に徹底して抽象的な語句を織り込む」というのがあると思うのだけれど、そういう一挙に普遍や超越に飛びつこうとする極端な抽象性は、たとえば『LIFE』収録曲の正気とは思えない多幸感のような「何だかよくわからないけどすごい、やばい」という途方もないメッセージ強度を生み出す一方で、その反面、90年代のある時期に小沢健二の歌が「消費」されたように、抽象的なままではどうにも記号的に上滑りするある種の弱さも有していると思っていて。

この点に関して、「ひふみよ」以降の小沢健二は、自身の歌がもつ極度の抽象性(あるいは非現実性)に対してかなり自覚的に、普遍や超越への志向は維持しつつ、さまざまに工夫して具体的なもの・現実的なものを接続しようとしてきたように見える。10年以上あけての帰還報告となった「ひふみよ」では、自分で見てきた世界各地の生活や文化を紹介しながら、過去の曲をそれらに大胆に引きつけて読み替えを行ってみせた。「東京の街が奏でる」では、自身の歌詞の中でもっとも記号的消費的に使われていた「東京」を、オペラシティという舞台を使って、実際にその街に暮らす人々が集まる緩やかな空間として再定義してみせた。「魔法的」では、巧妙な仕掛けによって日常とつながる小さな非日常を作ってみせて、そこからの帰還まで用意するという演出を行った。

それら1つ1つはわりと小さな試みで、しかもどこかおっかなびっくり進めている感じさえあったのだけれど、いずれも現実的なもの・具体的なものと自分の抽象的な歌とを結びつけようという意思が感じられて、かつそれらは音楽という回路だけでなくて、コンサートやライブという場所・空間や、サイトや連載で書かれている言葉や、あるいは絵本といったものによって多面的に展開されていた。少なくともいまの小沢健二はそういう方向性で活動している、というのがだんだん見えてきていたのが、ここ数年の動向だったわけです。

ここ数年の総仕上げとしての「春空虹」

そうした流れがあったうえで「春空虹」を迎えたわけだけれど、今回、昨年に新曲ラッシュと大々的な露出強化があり、若いファンも新しいファンもいるし、会場もでかいから家族連れの幼児もいればシニアもいたし、半分くらいは小沢健二のコンサート初めてだという人たちだった(挙手があった)のだけれど、そういうところにもきちんと「いまの小沢健二」を届ける方法として、ここ数年の「ひふみよ」「東京の街が奏でる」「魔法的」でやってたことの総仕上げとして、今回の「春空虹」が位置づけられていた感じ。ひじょうに安定感があった……というか最終日ということもあってか、前に見たみたいな手探り感がまったくなくあまりに自信満々にスムーズに進むものだから、あれこれふつうにコンサートやって終わるのかと正直ちょっと不安になったくらい。

じっさいこれまでの「ひふみよ」「東京の街が奏でる」「魔法的」はなんだかんだ言って割合にコアなファンが中心だった印象があって、それらの人たちには一応これまでの歩みもメッセージも届いている感じはあったけれど、一般的には去年まで「あの人はいま」か「タモリと仲のいいあのオジサン誰」状態だったわけだし。きょう小沢健二が「前回の『魔法的』のあとにユートピアみたいだったって言われて、ユートピアじゃダメだ、こんどはもっといろんな人を入れてめちゃめちゃにしようと思った」とか言ってたけど、今回こういう形でより多くの人に小沢健二の現在を届けられたのは良かったと思う。それにしたって子供連れ多かったな。

次はまた数年後とかになるんだろうか。あるいはいったん武道館でやれたからまたこんどは小さいところとかになるのかな。何というか、今回でかなり完成した感があるので、このあとどうなるのかちょっと気になります。以上。

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